イベントレポート
ロート製薬社様に学ぶ、AIをフル活用したACW削減と顧客インサイト分析基盤の構築

2026年5月28日に開催された「コールセンター/CRM デモ&コンファレンス in 大阪」にて事例・ソリューションセミナーを実施しました。テーマは「ロート製薬社様に学ぶ、AIをフル活用したアフターコールワーク削減や顧客インサイト分析基盤構築」です。
ロート製薬株式会社(以下、ロート製薬)で顧客対応の現場とシステムの両方を知る馬場谷英司様より、70年続くお客様の声(以下、VoC)の文化、現場の後処理負荷、汎用AIの限界、そして「AI Central Voice」導入の経緯と効果をお話しいただきました。
「通話しながら入力」の限界。コールセンターを悩ませる後処理の問題
セミナー冒頭、テックタッチの中出よりコールセンター業務における現状と課題、そして本セミナーで取り上げるデータ戦略AIエージェント「AI Central Voice」についてご紹介させていただきました。お客様の声はすべて活用できる形で記録に残したいものである一方で、コールセンターの現場は以下のような課題を抱えています。
電話中にメモを取ると現場のコミュニケーターが電話に集中しづらくなる
メモをもとに記録を残すと後処理の作業に時間がかかり受電量が落ちてしまう
人により解釈の違いで記録の精度に差が出てしまう

さらにデータ分析の観点では、それぞれの記録を分類し、400程度のタグをつけて業務改善に生かしたいものの、コミュニケーターがルールを覚え、正確にタグ付けを行うのは簡単ではありません。中出はコールセンター業務の理想の姿と「AI Central Voice」について、以下のように話します。
「電話が終わると理想的な記録が残っていて、必要なタグが正確についている。それがコールセンター業務の後処理における理想だと思います。この理想を実現するため、『AI Central Voice』は、複数のAIエージェントを組み合わせることで精度を担保しています。

具体的には、電話の内容を前処理するAIやカテゴリ・ラベルを考察するAI、付与されたカテゴリ・ラベルの精度を確認するAIが相互にやり取りし、納得するまで処理を回していく構成です。こうして得られた構造化データを、グラフ・チャット・報告書作成といった形に出力し、施策・アクションに活用できるオールインワンの仕組みが『AI Central Voice』です」(中出)
70年以上続くお客様の声を聞く文化を守りながら、ITやAIをフル活用
続いて、ロート製薬の馬場谷様より「AI Central Voice」の活用事例をご紹介いただきました。
馬場谷様は、コールセンターアウトソーサーとしてさまざまな業種のコールセンター構築を支援したのち、2015年にロート製薬社へ入社。以降、自社コールセンター業務やCRMシステムのリプレイスに携わり、2024年からはシステム部門に在籍しています。
ロート製薬社は2026年で創業から127周年を数え、70年も前からVoCの取り組みを重視してきました。かつては目薬の箱にハガキ(御愛用者の声の調査カード)を同封していましたが、現在はコールセンター・問い合わせフォーム・SNSなど、多様なチャネルを通じてお客様の声を集めています。

お客様の声は「聞いて終わり」ではなく、主に製品改善に生かされています。たとえば同社のクリーム状の治療薬の事例では、コールセンターに「フタが開けにくい」という声が多く寄せられていました。馬場谷様自身も電話を受けていた当時、ご高齢のお客様からの相談を受け、輪ゴムをつけてフタを回す方法を案内していたそうです。こうした声を分析・集約し、フタの構造とパッケージを見直して、少ない力でも開けやすい製品へ改善しました。

こうしたVoCをコミュニケーターが対話・ヒアリングして記録しており、人の力でやり続けてきたがゆえの限界を感じていたと、馬場谷様は当時の課題を振り返ります。
「問い合わせの量は多く、人がすべてを処理するには限界があり、人が介在することで主観が入る可能性も排除できません。さらに、通話をしながら同時に記録するコミュニケーターの負荷も無視できない課題です。VoCのすべてを人が担い続けることへの課題感が、今回の取り組みの起点になりました」(馬場谷様)
ただの要約はいらない。汎用AIでは超えられなかったデータ化の壁
ロート製薬社の対応記録には、VoCを情報ではなく、「声」として扱うべきという思想から数多くの独自のルールが存在します。たとえば製品の呼称は、正式な商品名に変換せず、お客様が話した言葉・表現のまま残すそうです。また症状を表現する「ゴロゴロ」「ベチャベチャ」といった擬態語も、「不快感があった」と変換せずにそのまま残します。

こうしたコミュニケーター業務が大きく変わることになった転機は、「ChatGPT」の登場でした。コミュニケーターの記録作業を省力化するため、馬場谷様は他社に先んじてAI活用に着手し、通話ログから要約を自動生成する仕組みを構築。要約の生成自体には成功したものの、現場の評価は「コレはコレで凄いけど、コレはこのままでは業務で使えないよね。。。」というものだったそうです。
「欲しいのはただの要約ではなく、VoCで使える記録だったことに気が付きました。汎用AIの要約では、文字起こしのノイズがそのまま残ることに加え、要約され過ぎる事でロート独自の記録フォーマットを再現できず、現場で使えるレベルには届いていなかったのです」(馬場谷様)

そこから馬場谷様は、2年にわたり解決策を模索し続けました。他のAIベンダー3〜4社にも相談したものの、400ものタグ分類は「実現できない」と言われ続けたそうです。また、生成AIを活用した内製も検討しましたが、プロンプトの工夫だけでは求める精度に到達できず、「複数処理を行うAIエージェントを組み合わせる必要があるのではないか」との考えに至りました。
案件への姿勢と価値観の一致。ロート製薬が「AI Central Voice」を選んだワケ
そんな中で出会ったのが、テックタッチの「AI Central Voice」でした。馬場谷様が評価したのは、単に技術的な実現可能性だけでなく、課題解決への向き合い方そのものだったといいます。
「多くのベンダーはデータを受け取り結果を返しますが、テックタッチさんは『なぜその素材がこの答えになるのか』という過程まで現場に入って確認してくれました。コールセンターの現場に深く入り、私たちの業務や運用を理解した上で提案してくれたことが大きかったです。他社からお断りされた400ものタグ分類にも正面から向き合っていただけました。

そして価値観の一致も決め手でした。後処理における人の作業を完全にゼロにするのではなく、役割に応じて人が担えばよいという立場です。人が介在しない仕組みではなく、『生産性も精度も高い仕組みをいかに構築していくかを考える』という価値観で一致したのが大きかったですね」(馬場谷様)
仕組みは大きく以下の4つのSTEPで構成されています。

セミナー当日のデモでは、電話を終えると会話の全文と要約が自動生成され、件名・問い合わせ内容・対応内容が自動でSalesforceに整理された形で記録される様子が紹介されました。400分類・最大6タグが自動で分類され、コミュニケーターが数百種類の分類を覚える必要がなくなり、現場の負担軽減に貢献しています。
コミュニケーターの継続意向は100%!現場の評価と導入後の変化
「AI Central Voice」の導入によって、ロート製薬ではコミュニケーターのオペレーションが変わりつつあります。これまでは通話しながらメモを取り、通話後に記録を作成してデータを蓄積していました。しかし「AI Central Voice」導入後のフローでは、通話が終わるとその内容がすべて記録され、要約・分類が完了し、分析しやすい形でデータが格納されます。コミュニケーターはお客様との対話に集中し、お客様が本当に話したいことを聞き取ることができる環境が整ってきました。
現場からの評価は、アンケート結果とコミュニケーターからの声にも表れていると、馬場谷様は紹介します。
「『AI Central Voice』を今後も継続して使用したいかという問いには、コミュニケーターの100%が『はい』と回答しました。カテゴリの自動付与はACW削減に役立つかという問いにも、100%が『はい』と回答しています。

処理が短縮されること、お客様のお話を落ち着いて聞けること、精神的な負担が減ること、数百個あるタグを自分で探さなくて良いことなどが理由に挙げられます」(馬場谷様)
後処理の自動化は、その先のデータ分析にも貢献しています。通話記録が全件・均一に残る事で高品質なVoCデータが蓄積され、以前よりも軽い業務負荷でインサイト分析が継続的に行えるようになり、その結果を商品・CS・戦略へ反映する好循環が生まれています。
「今後はデータ分析もAIが担うようになり、人にとっての見やすさだけでなく、AIにとっての扱いやすさも重要になるのではと考えています。AIエージェント同士が連携し、人はそれを見守る——そうした役割分担が将来の姿になるのではないでしょうか」(馬場谷様)
温かみと自動化を両立。人とAIが協働する新しいコールセンターを目指して
講演後は、テックタッチの中出が馬場谷様に問いを重ねる対談形式の質疑が行われました(以下、馬場谷様/中出)。
テックタッチ 中出(以下、中出):
AI導入やシステム導入では、「やり方が変わる」「新しいことを覚えなければならない」という負担に対して現場からの反発が起こりがちです。AI活用を推進する組織文化づくりや、現場に乗ってもらうために工夫していることはありますか。
ロート製薬馬場谷様(以下、馬場谷様):
AIを使う人からすると、便利だとしてもやり方が変わるのは嫌で、今まで通りやらせてほしい、と思うのは当たり前です。それはAIに限らず、どんな仕組みでも同じことが起こり得ます。その一方で、新しい仕組みの方が早く、良いことも事実です。どちらの事実も正しいなかで進めていくには、現場の方々を巻き込み、一緒に進め、新しい仕組みの良さを共有していくところが重要だと思います。

中出:
将来の世界観として、どのような構想を考えていますか。
馬場谷様:
理想は、AIが自動で多くを担ってくれることです。ただ、人の温かみのある表現はAIには難しい。人がやらなくてよいことはAIに任せ、人がやるべきところは人がやる、という役割分担をしっかり整えていきたいと思います。
最近では、検索AIが企業の担当者の代わりに電話で問い合わせてくれるというニュースも目にするようになりました。企業側がAIを使わなくても、消費者側がAIを使っていく。その流れにしっかり対応していくことが必要なのだと思います。
中出:
AI活用を進める上で、大変だったこと、重要だったこと、ブレイクスルーになったことはありますか。AI活用が進まないという担当者に、アドバイスをいただけますか。
馬場谷様:
AIでもシステムでも「任せたらなんとかなる」ということはほぼありません。どんなAIでもシステムでも、自分で理解し、使って、どういう機能かを分かった上で入っていく。それを自分だけでなく、多くの人ができるようになるのが“推進”なのだと思います。
「AI活用が進まない」という担当者には、「自分がAI活用のイメージを語れますか。分かっていますか」と問いたいですね。仲間を増やすために語る、語るために自分でやり切る。そこが出発点ではないでしょうか。
中出:
最後に、当社への期待をお聞かせください。
馬場谷様:
「夢の世界」の実現です。すでに多くのVoCデータを集めていますが、全社の誰もが扱いやすいものになっているかというと、まだまだそうではないと思います。集めたお客様の大事な声を、全社で使いやすい形にできるサービスをぜひ届けてほしいです。引き続きよろしくお願いします。







